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お知らせ 文化コミュニケーション学科

【現代文化学部】教員の研究紹介・黄蘊准教授

私の専門は文化人類学で、東南アジア地域研究、宗教人類学的研究をしてきました。ここ十年来、主にマレーシア、シンガポール、またタイなどの上座部仏教と信者たちの実践について研究しています。そのうち、マレーシアとシンガポールの上座部仏教信者は主として英語を媒介言語として仏教実践を展開しており、独特な風景をなしています。

上座部仏教といえば、ミャンマー、タイ、カンボジアなど東南アジア大陸部の国々がすぐに想起されるでしょう。しかし、東南アジア島嶼(とうしょ)部のマレーシア、シンガポール、インドネシアにも上座部仏教の僧侶と信者がおり、近年では多数の上座部仏教瞑想センターができたりして、上座部仏教のプレゼンスが強まりつつあります。

マレーシアとシンガポールに関していえば、それぞれ華人住民が両国の3割弱、8割前後を占め、大乗仏教、中国系の民間信仰が割と盛んな地域というイメージがあります。統計では確かにこの両国の華人住民の宗教信仰としていずれも仏教が全体の5割以上を占めており、またこの場合の仏教は基本的に大乗仏教をさします。

一方で、植民地時代に始まるスリランカ、大陸部諸国からの人的流動などにより、上座部仏教は実は19世紀からすでにこの両国に伝わっています。もともとはスリランカ、ミャンマー、タイ系移住民のための上座部仏教はその後徐々に現地の華人住民の参入を集めるようになり、今日この両国ではいずれも華人住民がすでに上座部仏教徒の多数派を占めるようになっています。つまり、大乗仏教も上座部仏教もその信者層は基本的に華人住民で、中には両方を同時に実践する華人もいます。

上座部仏教徒社会であるミャンマー、タイなどでは、仏教が共同体的慣行や地域文化と深く結びついています。仏教は人々の生活様式、共同体的規範であり、政治や社会生活全般とも密接な関係をもちます。それに対してマレーシアとシンガポールでは、上座部仏教の歴史は相対的に浅く、共同体的な儀礼、慣行とそこまで結びついておらず、知識や実践として存在している側面が大きい。その背景には、英語教育を受けた華人中間層が上座部仏教に教養と癒しを求め実践してきたという文脈があります。

共同体的伝統ではなく、知識や癒しとしての上座部仏教ははどのようにして今日のような展開の局面を築いてきたのか、マレーシアとシンガポールの中間層が上座部仏教に何を求めようとしているのかについて、今後も引き続き考察を深めていきたいと考えます。

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