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【子育て研究センター】令和2年度 第4回 乳幼児保育研究会を開催しました!

第4回 乳幼児保育研究会を開催しました!

1月27日(水)、第4回乳幼児保育研究会を開催しました。今回の研究会は、3歳以上児の保育について、かおるこども園の宮原さんと尚絅大学短期大学部附属こども園の永野さんのお二人に報告をして頂きました。

はじめに、かおるこども園の宮原さんから現在担任している3歳児クラスの子どもたちの様子と共に、その中のある男児について報告をしてもらいました。宮原さんは本学幼児教育学科の卒業生で、現在2年目の若手保育者です。かおるこども園では、今年度から保育のキーワードとして重視されている“子どもの主体性”について、主体性とは何かということを改めて問い直し、日々の保育を見直しているとのことです。毎日、子どもたちの「やってみたい」「これなんだろう」という気持ちに寄り添い、子どものつぶやきや発想を大事にしたいという思いを持って保育にあたっているそうです。担任している3歳児クラスの子ども達も、興味がある虫や水にじっくりとかかわりながら、疑問も持ったり不思議を感じたりして遊ぶ姿があるとのことでした。

そのようなクラスの中に、こだわりが強く、園生活に馴染めていない様子を見せる男児がいるそうです。遊びは好きなブロックをよくしているのですが、うまくいかないと泣いて暴れたり、友達とかかわって遊ぶ姿も少ないとのことでした。また、友達とのトラブル場面では手が出てしまったり、年下クラスの子どもを恐がったりするなど、保育者としてこうした姿をどう理解し受けとめていけばよいのか悩んでいるとのことでした。

宮原さんから、この男児とのかかわりの中で「友達の気持ちをどのように男児へ伝えていけば良いのか」、「男児がしたくないことを、そのまましなくても良いとするのはどうなのか。主体性と言うけれど、どこまでを主体性として捉えればよいか参加者たちの考えを聞かせてほしい」等という質問が出されました。

参加者からは、「まずその男児の居場所づくりができているかどうか、男児にとって園がどのような場所になっているのか見つめてみては」という指摘がなされました。また、「様々な場面で課題だと思われる姿があるかもしれないが、その子が充実している瞬間、熱中している瞬間、素敵な姿を探って保育者が把握することがまず重要でないか」という声も挙がりました。

3歳児保育の課題は、「“おもしろい”を追求する姿の保障である」という保育研究者もいるように、まずは、その男児が心から楽しいと思えることを丁寧に探っていくことが大切だと思います。また、当たり前のことですが子ども一人ひとりが感じる「おもしろい」は異なります。そのため、3歳児保育においては、集団に適応させたり順応させたりすることを目的とするのではなく、一人ひとりの「おもしろい」を追求する姿を支えていくことが目的になるのだと思います。もちろん、それは全くの個別での活動や生活をさせるという意味ではありません。子どもは誰もが根源的な欲求として他者とつながることを求めているからです。

これまでこの研究会で繰り返し確認し共有してきた学びである「クラスの中で一番辛い思いをしている子どもを中心に、子ども同士の関係を広げていく」ということは、今回の報告にあった男児の好きなことやその子がもつ世界を周りの子ども達に少しずつ広げていくなかで、徐々に友達との関係を広げていくということです。「オンナジ」「イッショ」が楽しい、気持ちよいという実感を積み重ね、他者とかかわることの心地よさに浸ることが、「他者の気持ちがわかる」という感覚の基盤的な経験として重要であることは見逃せません。そして結局は、その経験を積み重ねていく中で、その子の自分の「居場所」ができていくことにつながるのだろうと思います。

また「どこまでが主体性か」という問いに対して、「主体性と言う言葉が独り歩きして、主体性が発揮されているかどうかを全て子どもの責任に押し付けているのではないか。“相互主体”という言葉があるが、主体的であるかどうかは、決して個人の問題として問われるものではなく、他者(保育者や友達)との相互的なかかわりの中で認識されなければならない。」との意見が出されました。それは、ある意味で保育者の主体性の放棄とも言えるのではないでしょうか。嫌だと思ったら友達を叩くのも本人の自由意思であり、主体性だと捉える保育者はいないはずです。だからこそ、保育者は日々、保育の取り組む課題を明らかにし、子どもたちの言葉や表情、行為などの姿から自らの実践を絶えず点検し反省しなければならいのだと思います。なぜなら、保育者も教育・保育実践において主体性を有しているからです。最後に、宮原さんは「今日、たくさんの色々な話を聞けて勉強になった。今日の話を園の先生たちと共有してから、明日からまた子ども達に向き合っていきたい。」と話していました。研究会終了後いつも場所を移動し、尚絅子育て研究センターで「保育café」を開催しているのですが、そこでもかおるこども園の先生方は熱心にメモを取りながら、明日からの保育について相談したり、語り合っていらっしゃいました。

続いて、尚絅大学短期大学部附属こども園の永野さんからも、担任している3歳児クラスのある女児とその保護者とのかかわりについて報告をしてもらいました。永野さんも本学の卒業生で、現在5年目の保育者です。

担任しているクラスの女児で、今年度の4月に入園してから中々園に馴染めずに登園を渋り、場所や人、園での給食などに慣れるまでかなりの時間を要したそうです。

当初は母親も一緒に園で過ごしてもらい、女児が安心感をもてるまで付き添ってもらうように対応していました。きょうだいも同園の卒園生ですが、兄と姉はそうした様子は見られなかったので、母親はそうした自分と離れられない姿を「自分を必要としてくれているようで嬉しい」と感じている様子もあったようです。しかし、時間が経つにつれ、お母さん自身も不安を抱えていることがわかり、永野さんは子どもの姿を見守ることの大切さを伝えつつ、どのようにすれば女児と母親二人が前向きに、安定して園生活を送ることができるのか、園内の職員の力も借りながら考え実践して行ったそうです。

そのような中で、9月に入り運動会の練習が始まりました。最初は、練習への参加に後ろ向きな言動があったため、女児と話し合いながら「友達の様子を見て参加する」ことに決めたそうです。しばらく友達の様子を見ていると、次第に自分も身体を動かしはじめ、真似したりかけっこに参加したりする場面も増えてきました。そのことを友達から「すごいね」と認めてもらえてもらえた女児は、それをきっかけに自信を得ていったようです。その後は、母子共に不安定な姿をみせる時もありつつも、永野さんはその都度じっくりとコミュニケーションを取りながら、子どもの見せる姿の意味や隠された思いを代弁しながらかかわっていきました。現在は、当初と比べ安定感が出てきており、友達と一緒に遊びたいという素振りも見せるようになってきているとのことでした。永野さんは報告の中で「これまで私は、自分の思いばかりを子どもに話して、子ども自身の言葉を奪ってきたのかもしれない。今回は、保護者との距離感や伝え方に気を付けながらの対応が続いたが、親子共に一緒に考えながらゆっくり進めていったことが、女児や保護者との信頼関係につながったと思う」と話され、さらに「担任だけでなく、園長を含め様々な職員とも情報・状況を共有し、保護者が話を聞いてもらう場があったことは母親の安定につながったと思う」と振り返っていました。

報告の内容を受けて、参加者達からは「これだけ長くじっくりと保護者に寄り添っていて、大変な思いもされただろうが保育者としての大切な役割を再確認できた」、「一見大丈夫そうな保護者でも、心の中では見えない不安を抱えていることも多くあると思う。私の園でもコロナ禍からか、表情が心配な保護者も増えてきているように思う」などの意見が出されました。

この報告から学んだことは、先ほどの主体性の議論にも通じますが、やはり「関係性」にスポットをあてることが重要であるということです。今回は親子の関係性について中心に考えましたが、園で子どもがみせる様々な姿の背景には、多くは家庭や保護者の存在があることは間違いありません。しかし、こういう風に言うと、「子どもの姿は家庭や保護者に左右される」と解釈でき、そしてそれが「親が変われば子が変わる」というメッセージが見えてきそうです。ただ、このメッセージには、子どもの姿や行動の責任はあたかも家庭や保護者が全て負っていると伝わる危うさがあるように思えます。さらには、子どもとは家庭や保護者の影響から一切逃れられない存在である、と見ているとも言えます。

以前の研究会でも同じような話題になったことがありますが、「親が変われば子どもが変わる」の逆もまた然りで「子どもの姿が変わることで保護者が変わる」こともあるはずです。園という子どもの生活の場での遊びが充実し自己と他者の世界をつなげて育っていく姿が、保護者の気付きや学びを促すことも沢山あるはずです。こうした双方向的・相互作用的な関係のイメージを私達保育者がもつことが大切に思えます。保育者が大切にしている幼児期の遊びや仲間・集団づくりの意義の一つには、こうした家庭・保護者とのつながりへの影響もあると言えるのではないでしょうか。

特に参加者からの意見にあったように、コロナ禍によって経済的に苦しい家庭や、他者とのつながりが物理的にも精神的にも感じられにくいことで閉塞感や不安を覚える家庭は多いことと思います。ましてや日本の子育て世帯ではなおさらでしょう。そう考えると、今回の報告からは、単なる保護者対応の一事例ということを超えて、改めて保育という営みに求められている課題や、地域に生きる人々のつながりを創るといった保育の可能性について示唆が与えてくれたように思えます。永野さんは最後に「日々悩みは尽きないが、試行錯誤しながら今後の保育をしていきたい」と話されていました。

今回の研究会も、メンバー全員で考えを深め、保育の中で大切にしたいことを確認することのできた回となりました。来月も引き続き学びを深めていきたいと思います。      (文責:二子石諒太)

永野さん(尚絅附属こども園)
宮原さん(左)(かおるこども園)

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