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【子育て研究センター】令和2年度 第2回乳幼児保育研究会を開催しました

去る11月25日(水)に、第2回乳幼児保育研究会を開催しました。先月に引き続き、感染拡大防止策を講じ、3蜜を避ける形での実施となりました。

この11月の研究会は、今年度より新たにスタートさせた3歳以上児の保育についてのカンファレンスです。今回は、はけみや保育園の久本さんから、4歳児クラスの子どもとその仲間たちの様子について報告をしてもらいました。久本さんは本学幼児教育学科の卒業生で、現在3年目の保育者です。

久本さんは、自閉症スペクトラムの診断がおりている男児を担任しています。保育の中では、その子どもが「楽しい」と思える場面をたくさん作っていくことを心掛けているそうです。そして、一方ではその子どもに対する周りの友達のかかわり方に違和感を覚えたことから、(通りすがりにちょっかいを掛けるように頬を触ったり、馬鹿にしたような扱いをしたりする等)、その男児も含め、嫌なことは嫌と言えるようなクラスの全員が自分の思いをお互いにはっきりと伝えることのできる、安心感に支えられた関係を結んでほしいとの思いをもつようになったとのことでした。

その子どもの好きなこと、楽しいと思えることを探る日々を送っていた時、同僚の保育者が知人から藍の種を手に入れたそうです。その男児が青色が好きということもあり、もしかしたら興味をもってくれるのではと思い、食事の際に毎日使うテーブルクロスの藍染めに挑戦したとのことでした。3つのグループ毎にテーブルクロスを1枚ずつ染めることにしたそうですが、久本さんはその男児のグループに敢えて以前から少し気になっていた女児(その男児や友達に対して上から目線で接する言動があり、そうした態度が気がかりだったとのこと)をつなげてみようと考え、この二人が「楽しい」を共有お互いが対等に付き合える関係になってもらいたいとねらいを定め、一緒のグループにしてみたそうです。活動が進み、青く染まったテーブルクロスを見てとびきりの笑顔を見せるその男児と、その隣で一緒に喜ぶ女児の姿が見え、お互い友達を感じている姿に久本さん自身よろこびを感じたとのことでした。その日の給食では、二人が横に並んで座り、時折ふざけながらも和やかな雰囲気で食事をする姿も印象に残っているとのことでした。

この久本さんの実践報告に対して、ある参加者から「私の園にも診断がついている子どもがいるが、週3日も療育に通っており、友達との関係を作っていく難しさを感じている。」という声が出されました。この意見をきっかけに療育の在り方について話題にのぼりました。また別の参加者が「療育でなされている指導は、子ども一人を個別で抜き出して、集団や流れに適応するためのトレーニング色が強いと感じている。友達と一緒いることの心地よさの経験や繋がろうとする力は、まさに保育の遊びの中で育まれていくものではないのか」という意見も出されました。また別の参加者からは「なぜ障がいがある子どもにだけ努力や改善が求められるのか?その子どもを取り巻くクラス集団はそのままで良いのか?」という率直な疑問や憤りも出されました。また、「療育の方々の話で参考になることもあるが、やはり普段からその子どもと関わって一番近くでよく見ているのは私達自身。だけれどもやっぱり現場は手一杯で、丁寧にかかわりたいという思いとの間で葛藤している」という現場の保育者たちが置かれている保育条件や体制に対する悩みも吐露されました。

私達が保育の大原則として大切にしている「遊びの中で学び育つ」ということの意味は、決して「育てるために遊ばせる」ということではありません。子どもが「楽しい」と思える遊びを、保育者が子どもと共に追求し充実させていく中で、子どもの表現や心の表出がなされる瞬間(その子の内面世界の表出が保育者によってつかみ取られる瞬間)に意義があるのだと思います。久本さんは、報告の中で「このように男児が色々な場面で『楽しい』と思える経験を増やしていけばよいのだと気付いた」と話されていましたが、遊び中で子どもが感じる「楽しい」とは、それ自体が自分の世界を広げ今まさに育とうとしている姿であり、同時に、その「楽しさ」をクラスの中で丁寧に広げていくことで、友達とのかかわりが広がり、繋がっていくのでしょう。それは、一人の育ちが集団へと広がり浸透していくような、言わば育ちが更なる育ちを呼ぶといった連鎖する子どもの姿を引き出していくということでもあります。このことは、前述した現在の一部でみられる療育の在り方に対する疑問や課題についての大きなヒントも隠されているようにも思えます。久本さんの報告からは、「集団づくり」とは、個人が集団に適応・順応するということではなく、まさしく、子ども一人ひとりの個性や育ち等が基盤となるものであるということが改めて確認できたような気がします。最後に久本さんは、「今日、他の園の先生方の様子や考えを聞けて参考になった。また明日からクラスの子ども達と一生懸命向き合っていきたい。」と話していました。

引き続き3歳以上の保育カンファレンスにおいては、クラス集団の育ち合いに視点を起きながら、今後も参加者同士で多様な学びを深めていくことができればと思います。    (文責:二子石諒太)

報告者の久本さんです
今回も有意義な時間となりました

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