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【尚絅子育て研究センター】第11回乳児保育研究会を開催しました!

「実践カンファレンス:保育の悩みを話し合おう!⑦」

 2019年2月20日(水)に、第11回乳児保育研究会を開催しました。今回も「保育の悩みを話し合おう」のテーマで、はけみや保育園の本島先生と、小さな森の保育園の野田先生にそれぞれ日々の保育や子どもたちの悩みについて語っていただきました。

まず初めに、はけみや保育園の本島先生からは1歳児クラスのある男児のエピソードをもとに、この1年を通して悩みながらも子どもの姿から学んだことについて語ってもらいました。

夏頃からクラスの中で噛みつきが多発し、クラスの雰囲気がピリピリしているのを感じていたそうです。その中で、よく噛みつかれてしまう男児がおり、噛みつく子どもとセットで見守ることをしていたそうですが、なかなか止まない日々が続いていました。どうにかしてこの状況を変えたいと、ある日、クラスの保育者だけでなく、園全体で話し合いをしたそうです。どうすれば良いのか対応策を出し合う中で、保育者が、その男児のことについてこれまであまり深く知ることができていない(遠い存在であった)ことに気づいたそうです。これまでその男児は“噛みつかれてしまう子”という認識に留まっており、その男児の内面的な理解が不十分だったことに気づかされたそうです。

そこから、保育者と男児が近い存在になるために、丁寧にかかわりながらじっくりと観察する中で、その男児の好きなこと、性格、特徴など色々な物事が見えてきたとのことでした。そして保育者がその男児と心を通わせたいと願いながらかかわることで、噛まれていた男児は噛む子どもに対しての興味が強く、顔を近づけがちなことにも気付くことができました。

何か問題(ここでは噛みつき)が起きたときに、私たちはついその対応・対処の仕方に意識が向きがちです。また、噛みついてしまう、噛みつかれてしまう原因をその子ども自身に求めることもあります。そしてトラブルや噛みつきが起こらないようにと物理的に子ども同士の距離を離すという対策をとることもしばしばあるでしょう。しかし、この報告から学べることは、環境を振り返る(玩具の量と質は適切か、集団規模やスペースに問題はないか等)ことももちろんですが、本島先生たちのように噛みつきが起きたとき、子どもや保育を見る視点を変える、あるいは大人が変わるという意識の転換がなされた点ではないでしょうか。この発想は簡単なようにも思われるかもしれませんが、実はとても難しいことのような気がします。慌ただしい日々の中で、多くの子ども達に目と心を配りながら、子どもに怪我をさせてはならないという責任感の中で常に保育者は精一杯だからです。

ある参加者から、「噛まれる子どもを保育者の意識の真ん中に置き、その子どもをクラスの中心に遊びをつくっていく・保育を考えていく」という声が出されました。トラブルや噛みつきの原因を個人に見出すのではなく、人と人の間にある関係性や保育者の眼差しに課題をみつけることの重要性を学ぶことができました。

また、噛みついた子どもの親へどう伝えるかということも話題になりました。噛みつかれた子どもの親も悲しい気持ちになるのは当然ですが、反対に、我が子が他の子どもに噛みついてしまったことを聞かされた親も同時に不安になることもあります。報告者の先生も、噛みついた子どもの親へどう伝えるか悩んでいたとのことでした。研究会の中に、働いている園に我が子を通わせており、他の子どもへの噛みつきが止まずに悩まれていた経験をしたメンバーがいました。我が子が他の子どもに噛みついてしまうことについて、職員として、母親として話し合いに参加していたそうです。その当時の心境を振り返って「お願いだからうちの子どもを他の子どもに近づけないでほしいと思っていた」と話されていました。

参加者達からは、そうした母親の気持ちに寄り添いながら「お母さんのせいではないよ、家では怒らないでいいよ。くり返しながらお互いに気持ちがあることを学んでいくものなんだよと伝えている」等の意見が出されました。保育者として、噛んだ子も噛まれた子もひとりぼっちにさせず、保護者がそれぞれのお互いの子どもの様子や育ちに興味を持てるようなクラスづくりに取り組むことの大切さも気づくことのできた報告になりました。

次にちいさな森の保育園の野田先生からは、はけみや保育園の報告と同様、“遠い存在”だった子どもとかかわる中で見えてきた変化について、保育者の素直な心情を交えながら報告をしていただきました

クラスに、一見すると「おりこうさん」という言葉が似合う穏やかな子どもがいるそうです。しかし、ある日を境に、母子分離の際に泣いて感情をぶつけたり、抱っこを求めたり、また、家庭の中で弟にひっかきや噛みつきを行う姿(一方園では弟にとても優しい姿がある)が出てきたとのことでした。

報告者の先生は、その子どもの本当の姿はどっちなのだろうと悩みながらも、言葉にならない寂しさや不安、葛藤を受け止めたいと、好きな絵本を一緒に何冊も読み、一対一の時間をできる限り充実させていったそうです。しかし同時に、一対一の時間を取ろうとすればするほど、他の職員の目が気になり、申し訳なさを感じていたということでした。ある日、その子どもに対する思いとかかわりについて他の職員へ相談したところ、「先生の力になるよ!」と応援する声が返ってきたそうです。その時のことを「言葉にならないほど嬉しかった」と話されていました。

参加者の中で、この報告に出てくる子どものような経験をしたのを記憶しているメンバーがいました。そのメンバーは、自身の幼い頃、弟が生まれた時に、家庭の中と外で弟に対する接し方が違っていたのを覚えているそうです。園などの外では弟を大切にして周りの人に自慢したりしていたけれど、家庭の中では、意地悪をしたりきつく当たったりしていたそうです。他の参加者達からも、「家の中で意地悪をしてしまう姿も園で面倒見がいい姿も、どちらかが本当ということではなく、どちらも本人の姿だと思う」「寂しさの中で、家庭と園での姿の両方でバランスを取っているのかもしれない」という声が出されました。

また、報告者から今後の保育者以外(友達)との関係性の広がりについて質問がなされると、「絵本が好きという姿があるなら、絵本を中心に保育をつくっていくことが良いのではないか。その中で友達関係が広がっていくのでは。」、「友達と『オンナジ』『イッショ』が嬉しい時期。同じ絵本を数冊用意するなど、絵本を通した関係性が良いのでは。」、「保育者も他の子ども達も一緒に絵本の世界に入り、世界を共有していく遊びが楽しいのでは。」等、その子どもが好きなものを保育の中心にもってくるようなアドバイスが多く出されていました。

職員同士の関係性や保育者集団の在り方について話題になった際には、「職員同士の力関係も、役割分担も子ども達にはお見通しなんだろう。子ども達は本当によく見ている。」「私の園でも、若い保育士で周りの先生の様子・動き・顔色を窺いながら保育をしている新人の姿がある」という意見が挙がりました。今、現場には様々なニーズがあり、それに応えようと孤軍奮闘している担任保育者も少なくないのではないでしょうか。チーム保育という言葉もありますが、保育は一人(担任)がするものという思い込みを捨て、保育者同士助け合い、支え合いながら子どもと向き合うことで、きっと子ども達自身も先生同士の姿から多くのことを感じ取り学んでいくのではないでしょうか。経験年数によらず共に子どもへ温かな眼差しを向ける仲間となれるよう、職員同士の関係作りの大切さも改めて確認できました。

最後に野田先生は「保育者という存在の大きさや可能性、そして自分が変われば子どもの姿も変わるということに気付くことができた。」と自らの実践を振り返っておられました。

 今回の研究会はいつにも増して、報告者である保育者の率直な本音や悩みが生の声として出されたように感じ、そしてそれをもとに活発な意見交換ができた回となりました。

(文責:二子石諒太)

 

次回の研究会も引き続き「実践カンファレンス:保育の悩みを話し合おう!⑧」をテーマに、日々の保育の悩みを語り合いながら参加者全員で学びを深めることができたらと思います。

3月20日(水)14~16時、尚絅大学武蔵ヶ丘キャンパス 管理棟2階 尚絅子育て研究センター室にて開催いたします。お問い合わせ先:096-338-8840 メール:kosodate@shokei-gakuen.ac.jp、担当:増淵

報告者の野田先生
報告者の元島先生
今回も深く学び合えました!

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