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【尚絅子育て研究センター】第7回乳児保育研究会を開催しました!

テーマ『排泄について①』

 2017年10月25日(水)に、第7回乳児保育研究会を開催しました。今回のテーマは「排泄について」です。小さな森の保育園の山瀬みゆき先生と、認定こども園白梅幼稚園の杉谷由美先生のお二人から報告をしていただきました。

 始めに、山瀬先生より1歳児クラスのある子どもの状況について入園から現在までの丁寧な記録をもとに報告がありました。排泄を嫌がる子どもの理由を探りながら様々なかかわりや援助をしていく中で、山瀬先生は「どうすれば排泄が上手くいくようになるかと考える過ぎるあまり、子どもの気持ちを無視していたのではないか。」「遊びを中断させてはいなかったか。」と、実践を振り返って反省されていました。

 「排泄を楽しく誘い掛ける工夫」について、山瀬先生からメンバーに問いかけると、ある参加者が「うちの園では排泄についてネガティブに捉えることはなく、出たら他の園児や先生が喜んでくれるような雰囲気がある。職員同士でも、処理を手伝ってもらった際は『すみません』ではなく『ありがとう』と言うようにしている。」との話をしてくれました。考えてみれば、おしっこが漏れてしまった時に、自分の担任の先生が申し訳なさそうに「すみません」と周囲に謝る姿を見た子どもの胸には、きっと「僕/私はいけないことをしてしまったのか…。」という思いがよぎるのではないでしょうか。ここには、排泄を失敗と捉えるのではなく、子どもの当たり前の生理的欲求を当たり前に保障し、肯定的に受容しようとする保育者集団の姿勢が見えてきます。

 また、参加者からは、「保育者自身がトイレの意識から解き放たれることが必要ではないか」との声も上げられました。山瀬先生自身も、「その子どもを見る度にトイレのことが頭に浮かんでいた。きっと子どもに保育者の焦りや意識が伝わっていたのではないか。」と話していました。以前の研究会にて「子どもが泣くことの意味」を考え合った時と共通しますが、往々にして保育者の焦りや強い思いが、時には子どもとってプレッシャーとなることもあります。保育者は、子どもの健やかな育ちを願っているということに違いはないのですが、問題を取り除こうと解決策で頭がいっぱいになることで、反対に子どもに無理をさせてしまっていないかどうか今一度見直してみることも必要でしょう。

 次に、杉谷先生からは、0歳児クラスの咀嚼力が弱く食事場面で課題のある子どもの姿と、おむつ交換の際の取組みや悩んでいることについて報告していただきました。杉本先生の園は、幼稚園から幼保連携型認定こども園へ移行されてまだあまり月日がたっていないとのことで、今一度3歳未満児への保育について職員全員で学び直しをしているとのことでした。おむつ交換の場面で大切にしたいこととして特に意識されているのは、「保育者との1対1の関係性」だそうです。十分にスキンシップをとりながら、子どもに対して「おしっこ出ていて気持ち悪かったね。」「おむつ替えたら気持ち良いね。」など、保育者が丁寧に子どもの快不快を言葉にしていました。

 杉谷先生ご自身も、これから取り組みたいこととして話しておられましたが、やはり大切なことは、子どもが排泄の中で保育者とのコミュニケーションを楽しみながら、トイレへの興味・関心をもてるようになるという、子どもが自ら排泄に向かう姿です。無理におまるに座らせて急かすなどということをせず、保育者が子ども一人ひとりのサインを見逃さずに、養護的側面においても子どもの主体性を尊重したかかわりが重要であるということを報告の中で学び合いました。

 さて、今回の研究会では、お二人の先生の報告と参加メンバー同士で活発な意見交換がされる中で、大きく二つのことが話題になりました。

 一つ目は、トイレットトレーニングの開始時期の目安や子どものサインについてです。トイレットトレーニングは、子育てをしている親はもちろんのこと保育者の中でもどう進めていけばよいのか悩むこともあるようです。参加者の園それぞれで「お座りでオマルに座れるようになったら始める。」、「0歳児クラスでは高月齢の子ども、1歳児クラスでは夏前後に母親に誘いながら進めている。」、「忘れてならないのはハイハイができるようになり、背骨が強くなることで座位が獲得されてから。」など、それぞれの考え方にもとづいて取り組んでおられるようでした。理学療法士の参加メンバーからは、トイレットトレーニングの開始については子どもの心理面と身体面の二つの側面から考える必要があるということも教えてもらいました。心理面とは、養育者との十分なアタッチメント形成を基盤とした自己有用感やチャレンジする意欲の育ちはどうか、という観点で、身体面とは、「おまるに座る」という環境へ反射的な反応で排泄しているのか、もしくは、おおむね1歳~1歳半の歩行獲得時期の身体の育ちによって膀胱に尿が溜まっている感覚(尿意)を感じることで意識的に排泄しているのか、いずれかを見極める観点のことだそうです。

 その中で、改めて大切にしたいこととして再確認したことは、子どもの意志の尊重や子ども-保護者-保育者三者の関係性です。月齢や時期、身体的発達への理解はもちろんですが、私たち保育者には、子どもが排泄について興味を持ち、安心してトイレに向かうことのできる雰囲気や関係性を作り出すと同時に、睡眠や食事との関連を踏まえながら保護者とともに24時間の生活をどうデザインしていくのかが求められています。

 大きく話題になったことの二つ目としては、おむつの使用について、家庭の都合や保護者の負担と保育者の考えの二つを、どう折り合いをつけていけばよいかという問題です。例えば、普段はパンツで過ごしているのですが、午睡の時になると布団や服を濡らすことがあり、持ち帰って洗濯をしなければならないため、園ではおむつを履かせてほしいと希望している。しかし保育者は子どもの姿を見てパンツでも良いのではと考える、というような場合があります。この時保育者は、親の負担を少しでも軽くしてあげたいという思いと、子どもの育ちとの間で二者択一を迫られ、ジレンマを感じている状態です。これは、おむつに限ったことではなく、突き詰めていくと今日の親の働き方と育児の問題に直面します。現場の保育者たちは多くの場面でこうした問題にしばしば頭を悩ませているようです。また、特に今回の研究会での報告事例では、父親の育児協力の姿が見えてこないケースでした。参加者から、「おそらく母親は育児の責任感を全部背負っているのではないか。」という意見が出されました。ともすれば「産んだ子どものおむつの洗濯ぐらいしたら」という心無い世間の声が聞こえてきそうですが、少なくとも報告からは仕事・家事・育児に頑張りすぎて心身ともに疲れている母親の姿が浮かび上がってきました。

 意見交換が進む中で「今の子育て中の親に限らず、私たち保育者の中でも、育児は『こうするべき』『こうしなければならない』という考えが強い気がする。」との指摘の声もあがりました。育児行為が“~すべき”のように語られてしまうことは、保護者側からすれば相当な負担となることは想像に難くありません。近年の子ども・子育てには“そんな時だってあるよね”という大らかさと“大丈夫、ちゃんと育つよ”というある種の楽観的な見方が不足しているのかもしれません。もしかすると多くの親たちはその言葉を待っているのではないでしょうか。メンバーから「母親に、『子育てを一度全部緩くしてもいいんだよ』というメッセージを発信していけばよいのでは。」というアドバイスが出されました。働きながら一生懸命に家事を頑張る保護者に、そうした温かい言葉を掛けていくのも私たち保育者の役割であるように思います。

 それと同時に、子どもの育ちにとってどうしても大切なことを保護者へ伝えたい場合には、なぜそれが必要なのか、何のためにしているのか、それをしなかったらどうなるのか、というメリット・デメリットを伝えてあげることが必要であることも確認しました。理由や根拠と共に具体的な方法を示してあげることや、必要に応じて外部の医療・発達の専門機関から直接アドバイスを貰える機会を設けることも保護者を支えるポイントとして参加者で共有しました。この保護者の負担と子どもの育ちのジレンマは、もしかすると簡単に答えの出る問題ではないかもしれません。しかし今回の研究会では、改善のヒントとなり得る言葉がいくつも出されたような気がした、とても有意義な時間になりました。                       (文責:二子石)

 

 次回の研究会は、「アタッチメントと自己肯定感」をテーマに考え合いたいと思います。

11月29日(水)14~16時
尚絅大学武蔵ヶ丘キャンパス 管理棟2階 尚絅子育て研究センター室にて開催いたします。
お問い合わせ先:096-338-8840(代)
メール:kosodate@shokei-gakuen.ac.jp、担当:増淵

報告者の山瀬先生(左)と杉田先生(中央)
たくさんの参加者とじっくり話し合えました!

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