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【尚絅子育て研究センター】【幼児教育学科】2021年度 第7回保育実践講演会(第3回「乳幼児保育研究会」)報告

7月15日(木)、第7回保育実践講演会を開催しました。今回は、「子どもの文学〜『スーホの白い馬』を通して〜」というテーマで講師をお招きし、絵本や物語の読み語りの中で、乳幼児期から育んでいきたい子どもの文学について考え合いました。

はじめに、現在、本学幼児教育学科で「乳児保育Ⅱ」の非常勤講師を務め、保育歴40年以上の経験を持つ相澤幸代さんから大塚勇三作、赤羽末吉絵『スーホの白い馬』(福音館書店)の読み語りをしていただきました。相澤さん自身もこれまでの保育の中で年長児に手渡す物語として、この絵本を何度も読み語ってきました。スーホを読むときは、椎名誠作『白馬』の映画を子どもたちと観たり、モンゴルの馬頭琴の生演奏等の取り組みを年長交流の園のなかまたちとしてきたそうです。また、実際に馬に乗る体験をしながら、子ども自身が実感してこの物語に深く入っていけるような保育もしていったそうです。さらに、東北地方(青森など)に伝わる駒踊りの一種である「荒馬」を子どもたちが踊っていく姿にも繋げています。ちなみに「荒馬」は「荒々しくて乗りこなすのが難しい馬。人に馴れないあばれ馬」という意味があるそうです。まさに、スーホの「白い馬」は、そのような馬で、どこまでも自分の主人は自分であることを突き通しながら生きているように見えます。そして、スーホもそういう白馬を大切にし暮らしをともにする「なかま」として生きていました。どんな支配にも屈しない白馬と貧しく差別されても大切なものを守り抜こうとするスーホの生き方が重なり合い、子どもたちにも自分の人生を自分が決めて行動する「主人公として生きていくこと」の大切さをメッセージとして投げかけられているような気がしました。

この「スーホの白い馬」の結末を馬頭琴の奏でる音楽の力で支配者を封じ込め、「力でねじ伏せるのではなく、音楽というものの中にある清らかな力をもって乗り越えてゆく内容」に編集した「スーホと白い馬」(山並啓さん脚本:やまなみこども園)を保育の中で劇活動として取り組んだ保育者がいらっしゃいます。現在、天草でたからじま保育園の園長をしている松岡佳春さんからは、「戦いごっこ〜その後のペー君ぱー君〜スーホと白い馬と保育実践を通して〜」というテーマで実践報告をしていただきました。今年は、コロナの影響もあったのですが、年長と年中の劇だけはやることに決めていたそうです。そして、題材選びも様々にあったのですが、やはり、飼育していたニワトリとウサギが死んでしまったことを劇の題材に選ぼうと思い、この「スーホと白い馬」にしたそうです。松岡さんは、「戦いごっこ」をする子どもたちの姿から、保育の中で「攻撃、復讐、痛みということを、遊びや劇を通して追体験しながら、子どもの攻撃性を転化していく」ということを考えていたようです。

最後に、モンゴル民謡家の三枝彩子さんより「モンゴルの伝統文化と子どもの文学について」のテーマでご講演をいただきました。モンゴルといっても近代化された地域と今でも遊牧民の生活が営まれている地域と様々にあるそうで、各地域によっても伝統文化は違ってきます。いくつかの絵本を紹介していただきながら、モンゴルでの人々の伝統的な暮らしや文化の一コマを垣間見ることができました。そして、モンゴルの歌は、声の出し方から特徴があります。まるで草原の上に身を置いているような感覚になり、風とともに流れてくるその歌に身も心も包まれるような心地よさを感じることができます。馬頭琴や移動式住居のゲルの模型も見せていただきました。手に取り感じることにより、さらに物語の受け取り方に深みが増してきます。

目の前にいる子どもたちの姿から、一つの絵本や物語を通して「私たちは子どもたちに何を育てたいのか、何を伝えて行きたいのか」、そのことを考えることが一番大切だと思いました。子どもたちが大きく育っていく時の道しるべになることを願いながら、これからも「子どもたちに手渡したい文学」について考えていきたいと思います。ありがとうございました。(文責:増淵千保美)

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