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【子育て研究センター】【幼児教育学科】乳幼児保育研究会報告

2021年度はじめての乳幼児保育研究会を4月28日(水)に行いました。今年度もコロナ対策をしっかり行いながら研究会を開催したいと思います。さて今回は、ひまわり保育園の長島礼奈さんに昨年度一年間の保育の総括として「つきのおうちのくらし」というテーマでご報告していただきました。

ひまわり保育園は、現在2〜5歳児の異年齢保育をしています。20年以上前から3〜5歳児の異年齢保育を実践し、2014年度より2歳児を迎えて「長屋のようなくらし」を大切に、4つのおうち(クラス)の保育が展開されています。長島さんが昨年度担任した「つきのおうち」は、2歳児4名、3歳児3名、4歳児2名、5歳児2名の11名でした。ご自身も異年齢保育を経験して2年目になる年でした。彼女は、「園として大事にしている『くらし』というものが、まだピンときておらず、毎日のくらしはドタバタで、気持ちもセカセカだったように思います。しかし、『楽しいことをたっぷりとみんなで笑いあって暮らしていけたら』と思い、季節を大事に子どもたちといっしょに考えながらくらしていくことを大事にしていました」。「それでもやはり現実は、自己主張の表現の激しい2歳児、自分の思い通りにいかないと中々気持ちが切り替えられない3歳児・・・4・5歳児よりも人数の多い小さい子たちに振り回される毎日」で、一人担任の長島さんは、「どうしたらいいの!?」と、悩む毎日だったそうです。「そんな時、頼りになったのは大きい子たちの存在でした。『あやなさ〜ん。こっちしとくけん〜』と、小さい子のお手伝いやお世話、給食の配膳など、日々のくらしのなかでとても頼りになりました。そんな大きい子の存在は、小さいこどもたちも大好きで、本当のお姉ちゃんのように関わっていたように思います」。長島さん自身年長児の存在に随分助けられてきたようですが、一方では大人も子どもも一つのおうちのくらしを共につくっていこうと、お互いができることを行い、分かち合ってきたのかもしれません。

ここで、参加者から、「乳幼児期にとってのくらしの中身を保育者はどうやって作って来ましたか?何を大事にしながらくらしていますか?」また、「この2歳児や3歳児の姿は、全体をさしているのですか?」という質問がありました。2歳児は全員がそのような状況にあり、3歳児は一部の子どもたちにそのような姿が見られたそうです。例えば、ある日、お母さんが朝早い勤務で早出の時間帯に泣きながら登園してきた2歳児さんがいました。周りの子どもからは、「すごいきょうはなみだがでるひだね。」「おこりんぼう」と言われていたのですが、そのとき年長さんが「早出だったけんじゃない?」と言ってくれたそうです。その言葉に、「ずっと一緒にいたからそれがわかるんだよね」と、保育者間でもこれまでの異年齢関わりの良さを確認し合ったそうです。

そんな涙がよく出る子どもたちも含めてつきのおうちの担任になった長島さんは、冒頭でも述べたように『楽しいことをたっぷりとみんなで笑いあって暮らしていけたら』ということをテーマに、子どもたちの好きな遊びを取り入れながらキャンプごっこやパーティーごっこなど、とにかく楽しい時間を子どもたちと共に何度何度も繰り返しながら取り組んできたそうです。また、保育者と子どもとの関係についても、お母さん的存在としての「大人と子ども」という位置づけではなく、もっと子どもの世界に近い「お姉さんと子ども」というような対等な関係を築きたいと実践して来たそうです。

段々とくらしが落ち着いてきた1月頃、隣のうみのおうちの子どもたちがすごろくをして遊んでいるのを見て、年長児がオリジナルのすごろくを作っていたそうです。最初は「鬼滅コース」など自分たちの好きなキャラクターだったのですが、ある時、「○○ちゃんコース」と、友達のことをすごろくの中に入れ込んだものを作っている年長児の姿がありました。そこで、長島さんは「おもしろい!つきさんバージョンで作ろうよ!」と子どもたちに提案しました。そして、翌日には保育者が手伝うことなく年長さんだけで考え、出来上がっていました。長島さんは、「このすごろくの中身を見て、つきのおうちの一年のくらしがすべて詰まっていることに気づきました。泣いたり、怒ったり、イヤだイヤだという姿も自己主張という成長の一つです。そのありのままの姿を、他の子も否定したり、怒ったりすることなく認め、一人ひとりを受け入れてくれていたのです。つきのおうちが安心できる場所だからこそ、子どもたちはありのままの姿を出してくれていると思いました。このすごろくを見たとき、誰よりもおうちの仲間のことをよく見てわかっているなと思いました」。子どもたちと共に歩んで来た軌跡を振り返る長島さんに対して、参加者からは、「このすごろく作りを、「鬼滅コース」に留めずに「つきのおうち」のみんなのものに広げたことがとても素敵だった」という声もありました。つきのおうちの仲間のことを思い浮かべながら、年長さんは一コマ一コマを作って行ったのでしょうね。保育者からの提案がなければ、このような子どもの育ちを確認することもなかったかもしれません。そう考えると、私たち保育者がその時、その時、どのような言葉をかけるか、というのはとても重要なことになります。そこには、日頃から自分が取り組む保育の課題を明らかにしておかなければ、その言葉も紡ぎ出すことはできません。

彼女は、とても控えめに「このおうちは、ずっとメンバーが変わらないので、私だけの関わりが影響を与えたのではなく、ずっと自分たちが子ども同士で過ごしてきた中で、小さい子を気にかけたり、ありのままを出していいよという雰囲気ができて変わっていったのだと思う」と話していました。年月をかけて共にくらし、遊ぶ中で、そのような子ども同士の関係が育っていったのは確かです。しかし、そこには彼女自身が子どもとより対等な関係を築き安心できる存在になりたい、4・5歳児が2・3児に関わる姿から彼女自身が学び、「自己主張の表現の激しい2歳児、自分の思い通りにいかないと中々気持ちが切り替えられない3歳児」の姿を、ありのまま受け入れ、そこから子どもたちを笑顔でいっぱいにしたいと目標を立てて、日々の保育園のくらしの中で実践し続けたらからではないでしょうか。ある参加者が「子どもの今の姿から、保育者として『こういう姿になって欲しい』という願いを込めて保育を行なっている」と発言してくれました。これは同年齢保育でも異年齢保育でも、基本的なことでとても大切なことだと思います。保育者自身も主体をかけて、主体としての子どもたちと日々真剣に関わっていくということがなければ、子ども同士の関係やその集団の中で一人ひとりが輝き育つということはないのではないかと考えます。

長島さんは、報告の最後の方で、「振り返ると、小さい子が散歩途中で泣き叫び公園で遊ぶ時間が短くなったことや、何かをしようとなったときに、泣いてばかりいる子の方に私がついてしまい他の子が待たされることも何度もありました。それでも大きい子は、マイナスではなく「こんなところもある○○ちゃん」というように感じていたのかもしれません。自分達も、小さい時におうちの大きい子たちからそんな風に関わって受け入れてもらっていたこともよくわかっているのだと思います」と述べていました。ひまわり保育園の異年齢保育は、長屋のイメージで、子どもたちはいろんなところに行って良いし、大人も多様な関わりをしていくということを大切にしています。ですから、時には子ども自身が担任ではなく隣の保育者のところへ行って泣き止んだり、「子どもだけではなく、大人も気にかけたり気にかけられたり、頼ったり頼られたり」ということが日常なのだそうです。そのような園の職員全体で子どもたちの育ちを見守り支え合っていく協力関係も、子どもたちの姿に現れているのでしょう。参加者からは、「そのようなくらしの様子を具体的な一人の子どもの姿(事例)から知りたかった」という意見もありました。ぜひ、今後機会がありましたらエピソードを交えて実践報告をしていただきたいです。

今年度も、同じつきのおうちを持ち上がった長島さんにとって、この一年は「ありのままを受け入れ、安心できる関係」を土台に、どんなくらしを子どもたちと紡いでいくのか、とても楽しみな年になりそうです。いつか、子どもたちが背負っている家庭のくらしを踏まえて、どのように保育園でのくらしを子どもたちと共に作っていきたいか、そして、そのくらしを通して子どもたち一人ひとりのどんな姿を育てていきたいのか、についても聴いてみたいです。長島さんは、「正直今も、『くらし・・・』と聞かれてもよくわかりません」と述べていました。私は、空想的・観念的なくらしなどは存在しないと思います。それよりも、「子どもも親も、そして保育者も、日々それぞれの家庭や地域、社会の中でくらしを背負って保育園に集まっている」というこの事実から出発し、その中でも「小さな体で抱えきれないようなくらしを背負っている子」に焦点を合わせながら、保育園でのくらしを創造していただきたいと願っています。また、乳幼児保育研究会終了後の「保育café」でもざっくばらんに語り合えたらと思います。年度始めの超多忙なこの時期に報告してくださった長島礼奈さん、本当にありがとうございました!

 

次回は、5月26日(水)乳児保育について、かおるこども園の保育者からの実践報告をもとに学び合い話し合っていきたいと思います。さらに、6月30日(水)の幼児保育研では、『スーホの白い馬』を取り上げ「子どもの文学」について「何を子どもたちに手渡していくか」をテーマに意見交換をしたいと思います。いずれも時間帯は14時〜16時です。場所は、尚絅大学武蔵ヶ丘キャンパス大学2号館第2講義室にて開催しております。研究会終了後は、「保育café」も開催しております。ざっくばらんに保育のことを語り合いましょう。ぜひ、お待ちしております。(文責:増淵千保美)

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